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戸籍上自己の嫡出子として記載されている者との間の実親子関係について不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例  最高裁平成18年7月7日

事 案

Xが,戸籍上Xの子とされているYとの間の実親子関係が存在しないことの確認を求める事案

争 点

実親子関係不存在確認訴訟の提起が権利の濫用に当たるか

結 論

原審に差し戻し(権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反がある。)

規 範

甲がその戸籍上の子である乙との間の実親子関係の存在しないことの確認を求めている場合においては,甲乙間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ,判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより乙及びその関係者の受ける精神的苦痛,経済的不利益,甲が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機,目的,実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に甲以外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには,当該確認請求は権利の濫用に当たり許されないものというべきである。

理 由

実親子関係不存在確認訴訟は,実親子関係という基本的親族関係の存否について関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り,これにより実親子関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有するものであるから,真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には,実親子関係が存在しないことの確認を求めることができるのが原則である。しかしながら,上記戸籍の記載の正確性の要請等が例外を認めないものではないことは,民法が一定の場合に戸籍の記載を真実の実親子関係と合致させることについて制限を設けていること(776条,777条,782条,783条,785条)などから明らかである。

真実の親子関係と異なる出生の届出に基づき戸籍上甲の嫡出子として記載されている乙が,甲との間で長期間にわたり実の親子と同様に生活し,関係者もこれを前提として社会生活上の関係を形成してきた場合において,実親子関係が存在しないことを判決で確定するときは,乙に軽視し得ない精神的苦痛,経済的不利益を強いることになるばかりか,関係者間に形成された社会的秩序が一挙に破壊されることにもなりかねない。また,虚偽の出生の届出がされることについて乙には何ら帰責事由がないのに対し,そのような届出を自ら行い,又はこれを容認した甲が,当該届出から極めて長期間が経過した後になり,戸籍の記載が真実と異なる旨主張することは,当事者間の公平に著しく反する行為といえる。

具体的事案検討

(1) Yは,昭和18年5月ころ以降,A夫婦の下で実子として養育され,Xが平成6年に第1回目の調停を申し立てるまでの約51年間にわたり,XとYとの間で実の親子と同様の生活の実体があり,かつ,Xは,第1回目の調停申立てまでの間,YがXの実子であることを否定したことはなかった。

(2) 判決をもってXとYとの間の実親子関係の不存在が確定されるならば,Yが受ける精神的苦痛は,軽視し得ないものであることが予想され,また,Xは,Aの遺産の相当部分を相続したことがうかがわれるので,Xの相続が発生した場合に,Yが受ける経済的不利益も軽視し得ないものである可能性が高い。

(3) Xが,上記第1回目の調停申立てをした動機,目的は明らかでないし,その申立てを取り下げた理由も明らかではない。その後,約10年が経過して再度調停を申し立て,更には本件訴訟を提起するに至ったことについても,XがYとの間の実親子関係を否定しなければならないような合理的な事情があることはうかがわれない。


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